映画「この世界の片隅に」考察・感想
あらすじ
1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。 それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。 創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。 やがて戦争は激しくなり、日本海軍の要となっている呉はアメリカ軍によるすさまじい空襲にさらされ、数多くの軍艦が燃え上がり、町並みも破壊されていく。 そんな状況でも懸命に生きていくすずだったが、ついに1945年8月を迎える。
スタッフ
監督 片渕須直
原作 こうの史代
脚本 片渕須直
企画 丸山正雄
プロデューサー 真木太郎
キャスト(声の出演)
のん 北條(浦野)すず
細谷佳正 北條周作
尾身美詞 黒村径子
稲葉菜月 黒村晴美
牛山茂 北條円太郎
各方面から絶賛されている作品であり、前々から気になっていたのだが、ようやく観賞することができた。
一言で言うと、間違いなく、傑作と言っていいアニメ映画だと思う。
作品としては、「戦争」が一つのテーマとして描かれているが、今までの映画とは少し違った視点から描かれている。
映画だけでなく、近現代史の中でもそうだと思うのだが、「戦争」というものを語るときは、「政府」や「軍部」または、「兵士」といった視点を中心として語られることがこれまで多かったと思う。
しかし、「この世界の片隅に」においては、一人の市民、それもごくごく平凡な女性(すず)の視点から戦争というものを描いており、その空気感はかなりのリアリティがある。
そのリアリティを生み出しているものは、緻密な風景描写や時代考察もそうだが、主人公やその家族の日常がテンポよく、ある意味淡々とドキュメンタリータッチで描かれている点が大きいと思う。(ファンタジーの要素もあり。)
そして、主人公やその家族からは、戦争の「悲惨さ」や「残酷さ」まして「戦争は悪である」といった意識はほとんど感じられない。
そういった意識は、多くの庶民にとって終戦後に「戦争」を客観視して初めて、生まれてくるものであり、当時の庶民は、一日一日を必死に、そして、淡々と生きていたというのが実際ではないか。
そして、その庶民の視点こそが、私たちが過去を考えるときに最も身近な視点であり、この映画の持つリアリティの所以だと思う。
すずと周作が本当の夫婦になっていく様子であったり、日常の家族団欒であったり、その中で生まれる笑える数々のエピソードは、どれも身近なものに感じられ、あたかも自分がその近所で生活しているような気持ちにさせられた。
そして、後半、そのような家族の日常が8月6日へ次第に向かっていく緊張感。
伏線も多々あり、情報量も多いため、1回だけでは、全てを理解するのは、少し難しいかもしれない。
ただ、見終わった後には、必ず、人間の根本的な強さや温かさを感じられる本当に素晴らしい映画だと思う。